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【社外参謀’s File #04】井上由希子 やり方を変えたら行動が自発的に。中小企業の社長を数字で支える税理士のこだわりとは
中小企業と心をひとつに、外から支える「社外参謀」。JCFに所属する社外参謀たちの軌跡と中小企業への思いをお伝えする『社外参謀’s File』をお届けします。第四回目は、税理士の井上由希子。社長自らが数字に強くなるサポート方法に至るまでと、そのこだわりを聞きました。
■簿記の勉強がハマり、父の会計事務所に入所
現在、私が副代表をしている税理士法人久米会計は、元は父が久米会計事務所として開業しました。そもそもは継ぐ意思はなかったのですが、大学の時に母から「簿記の勉強くらいしといたらいいんちゃう?」と言われ、なんとなく簿記の勉強を始めたんです。それが意外とハマってしまって。簿記1級まで取ってから、税理士の資格も取ろうと決意。早めに取得するため、大学院に進学しながら2科目は受験し、税理士の資格を取得しました。
そんな時に、久米会計事務所の従業員が全員辞めてしまうという事態が起こってしまったんです。私は家の事務所にすぐ入るつもりはなかったのですが、人手が足りず、急きょ所属することになりました。その後、兄も入所し、父が亡くなった現在は、兄と私が中心に15年以上経営しています。
■従来のやり方に違和感…決算書の数字を社長自らが書くスタイルに
入ってすぐの頃は、顧問先の社長との打ち合わせに父と一緒について行くことが多く、最初は基本的に父の隣で話を聴くだけでした。でも2~3年経った頃、父から「今回は自分で説明してみなさい」と言われて見様見真似で社長と話をするようになりました。その頃の社長との打ち合わせは、ただ決算書を上から読み上げて、会計事務所が立てた計画を説明して「これでいいですか」と確認するだけでした。会計事務所が立てた計画を読み上げることに、私としてはとても違和感がありました。社長の会社なのに、なぜ税理士が計画を立てるのか、まるで財布を会計事務所に預けているみたいに感じがしました。「これでいいのだろうか?」とずっと感じていました。
一緒に働いている兄も同じ違和感を持っていて、ある時、東京の会計事務所の研修に参加してきたんです。そこは過去ではなく未来の話をすることを重点に置いている事務所でした。そのやり方を参考に、打ち合わせの時に社長が自分で未来の決算書の数字を書くスタイルに変えることにしました。すると、社長自身が自分で数字を見て考えることで、経費や利益に対する考え方をちゃんと理解できるようになっていきました。お金を貯めるため、利益を出すためには何が必要か、ということを考えられるようになり、10年くらい続けたところで、だいぶ社長の動き方に変化が。決算書を活かし、成長する会社が増えてきたんです。久米会計の強みは、社長が主体的に考えて書き、社長自身で計画を立てることをサポートできる点だと思います。
■社外参謀大学での学びをサービスに活かし、顧問先からも感謝の声が
数字を書いてもらうスタイルに変えて、順調な会社が多くなりましたが、それでもどうしても数字が伸びにくい会社もあります。そういった会社の社長は、ビジョンをなんとなく作って、トップダウンで物事を進めている傾向が強く、採用や雇用継続の悩みも抱えていることが多いです。久米会計も、自社に経営理念や戦略などの経営計画は設定していましたが、従業員まで伝わっていない感覚があり、どうすれば組織に落とし込めるかを模索するなか、色々な書籍や研修を受けながら悩んでいました。
そんな時に、日本キャッシュフロー協会でJCFの石原さんと出会いました。うちの事務所は会社の戦略や行動まで入り込んだコンサルはしていませんが、石原さんが経営の王道である「五つ星」というコンテンツを実践されているのを知り「具体的に顧客へどう落とし込んでいるのか学びたい!」と社外参謀大学を受講することにしました。
現在は、社外参謀大学の視点も取り入れ、数字のサポートを中心に長期的視点でビジョンや戦略も口頭で簡易に確認しながら、実践的に数字を行動に落とし込むサポートができるようになりました。社長からも、判断や決断がしやすくなったと喜んでいただいていて、やりがいを感じています。
社外参謀大学の卒業後は、「五つ星アカデミー」のファシリテート講師としてJCFの事業に参画。今後は私の得意分野である決算書を活用した「決算書1Dayセミナー 基礎編」も開催予定です。もっとビジョンやミッション、戦略などの知識を増やして自身を鍛え、顧問先にもフィードバックしたいと考えています。特に事業承継する時に、しっかりした基盤がないと、次世代の人が困ると思うんです。それも含めてサポートしていくのが、これからの私の目標です。
■数字に強くなると行動も自発的に!社長が望む方向へ進めるよう全力でサポートしたい
毎月未来の数字を書いてもらうだけで、本当に社長が数字に強くなっていきます。塾の算数ドリルと同じように、繰り返すことでわかってくるんだと思います。社長が自分で
計画を立てることができるようになれば、次の行動も早くなります。しかも、税理士に相談する前に自分で情報を得て計算できたら、やはり早く決断できますし、そういう会社は成長していきます。久米会計の顧問先社長も、先生こんな計画でこうしていこうと考えているけど、間違ってないかな~と答え合わせで打合せする社長も増えてきました。もちろん自分で数字計画を立ててから相談にきます。
今後も社長がビジョンを掲げて前向きにやりたい方向に進められるよう、全力でサポートしていければと思います。やっぱりこの仕事をやっていてよかったなと思うことは、社長が、最初は「厳しいわ~」と言っていたのが、帰る頃には「頑張ります!」と前向きに元気になっているのを見ることです。これからも自分自身も成長しながら、強みを活かし、関わっていいただいた会社・社長を応援していきたいと思います。
実際に行動して会社を動かすのは社長です。社長の判断で会社の未来は大きく変わってしまいます。そのためには、判断できるように社長が会社で一番数字に強くなること、そして会社にしっかりお金を貯めておくことが必要だと感じます。そこで、無駄な節税対策はせずに、計画的にお金を貯めることを一緒に考えるのが、私たちの役目で、私が仕事で一番こだわっているところです。
<プロフィール>
井上 由希子(いのうえ・ゆきこ)
税理士法人久米会計 副代表。税理士の資格を取得後、父の久米会計事務所に勤務。社長自身が数字を使えるようになり、お金と数字に強くなるサポートを支援している。プライベートでは高校生の一人息子の母。趣味は息子とのゴルフと、週1で通うボーカルレッスン。